都心型クラフトサケブルアリーの幕開け

2002年に行政構造改革対策としてどぶろく特区というものが設けられました。
今にいたるまで、清酒の新規免許を取得するのは不可能とさえ言われていますが、
このどぶろく特区では、原始的な清酒のスタイルである「濁酒」を飲食店や民宿で造られることが可能になりました。

私は、この特区のどぶろくにはほとんど興味を持っていませんでした。
実際に特区で造られているというどぶろくを口にする機会を得て、
あまり美味しいと感じたことも、正直ありませんでした。
美味しい日本酒は、そんなに簡単に造れるものではないと思っていました。

その後、韓国マッコリのブームがあったりして、
1段仕込のにごり酒への興味が高まりましたが、
どぶろくにしてもマッコリにしても、
やはりちゃんとした清酒メーカーが造るものは、格段に質が高く、
わざわざ田舎まで行って美味しくないどぶろくを買う理由を自分のなかに見出すことはできませんでした。

でも、このどぶろく特区ができた時、
日本政策投資銀行の鹿児島支店におられた佐藤 淳さん(現在は金沢学院大学教授)が、
酒販ニュースに「どぶろくが日本の酒類業界を救う救世主になるかもしれない」と書いておられたのが、
何故か強く心に留まりました。

今でも清酒の新規酒造免許を取得するのが不可能に近い状況は変わっていませんが、
その後の時の流れのなかで酒造メーカーのM&Aが進み、
別業界の資本参入や、外資参入などの例もみられるようになりました。
東京の都心に東京港醸造というミニブルアリーも登場しました。
さらに海外におけるSakeへの関心の高まりから、
クラフトビアー、クラフトスピリッツに続いてクラフトサケの醸造所もいくつも現れてきています。

私にとって目から鱗の体験は、
アメリカの Corolado Sake という醸造所が作ったバニラとシナモン風味のSakeでした。
びっくりしました。

私がびっくりしたというのは、
ひとりの消費者として、単純に美味しいと感じたこと。
これは本来の日本酒とは全然違う飲み物であると頭で理解しながらも、
ひとりの消費者として、これはアリだと思いました。

そう考えれば、すでにホップを副原料にしたSakeの製造は、他の海外ブルアリーで行われています。
日本は規制による厳重な管理と、
まがい物を嫌う日本人の潔癖性からでしょうか、
日本酒にフレーバーをつけた飲み物を作るという機運はなく、
また、これまで日本酒カクテルで大成功した事例もありません。

時代の流れのタイミングもあるのかもしれません。
スピリッツブームを代表するジンは、
まさに香りを楽しむ飲料で、
その風味に何を使うかということが、
とても魅力的なストーリーになっています。

世界のバーシーンでは、
もはやバーテンダーという肩書よりミクソロジストという肩書のほうが新鮮。
香りのバラエティーというものに、世界的な関心が集まっています。

どぶろくをはじめとした「その他醸造酒」というカテゴリーに、
今チャンスがあるように思えます。
フランスでSakeの醸造を始めた稲川さんと今井さんのコンビが生んだWakazeは、
三軒茶屋でフレーバー酒を製造・販売しました。
専門酒販店のトップランナーであるはせがわ酒店は、
東京駅ナカに、リキュール免許・清酒試験醸造免許を取得して製造・販売をスタートします。
そして、今度は浅草にWakazeの今井さん同様に秋田の新政酒造で酒を学んだ岡住さんが、木花之醸造所をスタートさせます。

そこでしか飲めないレアでフレッシュな酒。
都心型クラフトブルアリーの時代が幕を開けようとしています。

若くてエネルギーの満ち満ちた新規参入者たちに、
守旧派はどのように立ち向かうべきでしょうか。
伝統的酒造りのなかで培ったモノづくりの価値を今こそ世に問うチャンスかもしれません。

きっと、もっと新しい面白い人々が出現することでしょう。
面白くなります。

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