イムゲーに思う沖縄焼酎の新しい可能性

2019年8月に、沖縄の泡盛メーカー3社が共同開発したイムゲーという酒を発売しました。

沖縄の泡盛メーカーといえば12社のプロジェクトとして「尚」という3回蒸留泡盛が発売されたことも昨年話題になりました。
ジンを中心にした世界的クラフトスピリッツブームと、ミクソロジストへの脚光など、本格焼酎をめぐる環境にフォローの風が吹き始めているのを感じる今日この頃です。
これまでの泡盛独特のクセを排除して良い香りを強調した「尚」の発売、
それから全然違う切り口ながら、世界的に有名なバーテンダー、バーオーナーの後閑新吾さんがカクテルベースとしての焼酎としてプロデュースした芋・米・麦の3種類のSG焼酎。
そのままの酒を割ったりロックで飲むことが当たり前だった本格焼酎を見る視点が、確実に変わっています。

イムゲーは、そういった最先端の開発ではなく、
琉球王朝時代から地元で庶民に飲まれていた大衆酒のリバイバルです。
日本への本格焼酎の技術伝来は、確たる証拠はないものの、琉球経由、大陸経由、朝鮮半島経由と主として3通りのルートがあったのではないかと言われています。
そのなかでも、芋焼酎の伝来ルートは、タイから琉球を経て鹿児島に伝来したという説が有力です。
それを証明するのがこのイムゲーと地元で呼ばれていた焼酎でしょう。

イムゲーは、庶民の間で自家醸造された芋を主原料とした蒸留酒です。
米が貴重品であったのは、琉球も同じでしたから、米原料の泡盛は琉球王朝の厳しい管理下におかれ、庶民が自由に飲めるような飲み物ではありませんでした。
そこで、庶民にも手に入り易かった芋を原料にしたお酒を庶民は楽しんでいたといわれています。
ここまでは薩摩の芋焼酎と似たような話です。

薩摩の芋焼酎とイムゲーが決定的に違うのは、芋の他に醪に黒糖を添加することです。
これは沖縄ならではの原材料ですね。
結果として、イムゲーには芋の芳醇な風味と、黒糖の軽快な甘い風味が混じり合った独特の個性を見ることができるのです。
ここまででも面白い。
飲んでみたくなります。

さらに文献によれば、イムゲーは麹の原料として、台所の廃棄物、米、粟、麦の籾殻を使って大陸風の餅麹(固形麹)を使っていたといいます。
餅麹は日本での酒造り他の発酵食品をつくる際に使われる「バラ麹」と違って、原料を粉砕したものを水で伸ばして団子やレンガのように固めてカビをはやしたものです。
カビの種類は、日本の「アスペルギウスオリゼー」ではなく、クモノスカビを主として生育するという特徴があります。
この餅麹と水を使わない固形醪によって醸される中国の黄酒(ファンチュー)や白酒(バイチュー)は、独特の複雑味と一種強烈な風味を持っています。

ということは、100年前まで琉球で造られていたイムゲーは、今の芋焼酎にはない独特で複雑味のある風味があったはず。
むらむらと好奇心が頭をもたげます。

昨年、3社のメーカーから発売されたイムゲーは、餅麹ではなくバラ麹を使った芋+黒糖原料ですから、比較的洗練されたきれいな風味の酒に仕上がっています。
誰か、餅麹を使ってみませんか。
うへっ、これは無理 という酒になるかもしれませんが、
その先にもっと深みのある世界があるかもしれません。
芋焼酎という世界の、反対方向への進化の姿を、なんだか見てみたい。

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