温暖化で酒蔵が北へ移転する時代

6月17日付 朝日新聞夕刊の記事を読んで驚きました。
岐阜の三千櫻酒造が今年の秋に北海道東川町へ移転するとのことです。

北海道と言えば、2017年に旭川の東、上川町で酒造りを始めた上川大雪酒造を思い出します。
この酒蔵は三重県の酒造免許を北海道へ移転しました。
清酒の新規製造免許が県をまたいで移転することが大変珍しいということ、
また、有名なフレンチレストラン「オテル・ド・ミクニ」の三國シェフも関わった町おこし事業ということで、大きな話題になりました。
良い杜氏にも恵まれて、とても品質の高い酒をだしておられます。

そして今度は岐阜県からの移転。
しかも廃業蔵の免許移転ではなく、
普通に稼働しており、銘柄も広く知られた「三千櫻」の移転です。
岐阜県中津川市で140年以上の歴史を持つ酒蔵。
驚きました。
移転先となる東川町は、やはり旭川の近く、
上記の上川大雪酒造がある上川町から30㎞ほどのところです。
自然の美しいところでしょう。

移転の理由は、「施設の老朽化」と「温暖化」だといいます。
平均気温の上昇で温度管理も難しくなるなか、
老朽化した設備に投資をして使うよりも、
100年先を見据えて、新しい設備で出来る条件の整った案件ということでしょう。
施設は東川町が建設し、酒蔵に運営を委託する「公設民営型」の新しいスキームですから、酒蔵のコスト負担はおさえることができます。

日本の酒蔵の多くは、古い蔵を補修しながらそのまま使っています。
最盛期の1/3まで清酒の消費が縮小するなかで、
かつて大きな生産量を誇った酒蔵ほど、既存設備と現状のギャップが大きいのが実情です。
そんな酒蔵を見学させて頂くと、大きな体育館の片隅で酒造りをしているような、
非効率的な資産の使い方が目につきます。

新しい酒蔵は、小さなスペースに設備をおさめ、
全体にエアコンをしっかりときかせたコンパクトなものが大半で、
限りなく四季醸造に近い稼働率の生産を目指しています。

面積だけは広い昔の風通しの良い蔵で、
エアコンもなく、冬季のみの製造を行う酒蔵とは、
生産効率がまったく違う。
生産コストも違います。

100年先まで酒造りを続けるという酒蔵社長の「本気な」心が伝わってきます。

三千櫻酒造の山田社長は、メキシコ初の日本酒蔵の開設にもかかわっておられます。
超軟水の中津川の水から、超硬水のメキシコシティーの水を使っての酒造りが大変だったと言われていますが、
ご本人に「どうでしたか?」とお尋ねしたところ、
腕の力こぶをポンポンと叩いて、「これだよ」と胸を張っておられたのが印象に残っています。
そんなフロンティアスピリットと柔軟性を持った山田社長なればこその決断とも思えます。
是非、素晴らしい酒を造って、日本に元気と勇気を与えて頂きたいと思います。

それにしても、「温暖化」を理由に酒蔵を移転するという時代になったのかと、改めて複雑な思いがよぎります。
温暖化によってブドウの産地が北方へ移動しているとは良く言われること。
北海道の米も、今でこそ普通にスーパーで売られるようになりましたが、
10年前には非常に珍しい存在でした。
良い米を安定して手当てできる環境があれば、
北海道は新しい日本酒の銘醸地になる可能性を十分に有しています。

証券マンからの転職でスタートした上川大雪酒造と、
老舗蔵元の100年先を見据えた挑戦。
しばらく北海道から目が離せません。


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