黄金色の風景

 コロナは世界的に本当に様々な影響を及ぼしました。

外食から内食へのシフトが進んで、欧米では料理ブームになっているとか。

今までよほど外食が多かったのか、冷食をそのままチンして食べていたのか。いずれにせよ、リモートワークと外出自粛のために、多くの人が自宅で過ごす時間が増えて、その結果いろいろなことが起きているということでしょう。家庭でできるエクササイズとか、いままでは考えられなかった散歩の習慣とか。

微笑ましいことですし、今まで少し希薄だった家族の時間が増え、例えば(あまり良い例ではありませんが)仮面夫婦だった家にも夫婦の会話が生まれたと聞きました。

一方で、家族と過ごす時間が多すぎることにストレスを覚える人たちがいることも確かなようです。特に営業職が天職というタイプ。人と会って話してというところから、すべてが始まるタイプの人々にとっては、家に閉じこもって家族以外の人と話すことがなく、新しい刺激が見つからないことに、物足りなさとストレスを感じているようです。

良いこと悪いことを含めて「新しい生活」。

そのなかで、自分の新しいライフスタイルを構築してゆくしかないのですね。文句を言っても仕方がない。文句を言う相手もありません。

さて、今回のコロナによる緊急事態を受けて、地方への移住を考える若者が多くなったと聞きました。リモートワークが普通になり、家庭にPCが1台あれば大抵の仕事や打合せはこと足りるということがわかってしまえば、なにも家賃が高くて、夏は耐え難く暑く、どこへ行っても混雑していて、満員電車の通勤に毎日長時間耐えなくてはならない生活に固執する必要はないと思います。

これをきっかけに地方移住がトレンドになり、地方都市の人口が増加すれば、どうやっても止まらなかった東京一極集中に歯止めがかかり、地方創生への道筋が多少なりとも開けるというものです。

私は東京生まれの東京育ち、それも本当の都心育ちですが、小さい時からそれほど東京という町が好きではありませんでした。

確かに東京には何でもあります。特に食いしん坊の私にとっては、美味しい店が掘り尽くせないほどたくさんあるということは天国。この次はどこへ行ってやろうと頭のなかで妄想しているだけで、かなり満足感が満たされるほど。映画館も美術展も、コンサートも、スポーツイベントも。ある休日、暇だなと思ってからちょいと調べれば、相当に満足感のある休日の過ごし方は何通りもあります。

でも、50歳を過ぎたらどこかへ移り住みたい。国内でも海外でも良い。都会ではなく、自然と広い空に囲まれた生活をしたいと昔から頭に思い描いてきました。

実際は4人も子供を作ってしまったことや、人生設計が自分の思い通りにならなかったりということもあって、50歳で東京を逃げ出すことはできず、すでに60歳も超えてしまいました。

コロナの影響で若者の地方移住がトレンドになりつつあるという話を聞くまでもなく、この半年のなかで自分のなかに改めて東京脱出プランが頭をもたげてきました。悠々自適をできるような蓄えもないので、現実問題としてプランニングをするには、色々と工夫が必要です。さてどうなることやら。

9月も中旬となり、穀倉地帯には黄金色の田んぼが美しいことでしょう。早生の収穫に始まって10月下旬まで、様々な品種の酒米が収穫され、いよいよ酒造りが始まります。

東京の人間が地方に行くのは嫌がられるので、今年は遠慮してまったく酒蔵にも訪問していません。黄金色の田んぼも、頭のなかで妄想するだけ。

でも、目を閉じて頭のなかに秋の風景を思い浮かべるだけで、私には空の青さや雲の流れ、風の音や鳥のさえずり、そして土や植物の香りが感じられます。

爽やかな「気」が身体いっぱいに充満し、いつまでもそのままそこにいたいと思えます。

酒の仕事に就くことができたおかげで、私は日本全国の酒蔵を訪ね歩き、様々な方々とお話をしてきました。東京に住みながらも、東京にはない自然、ゆったとした時間の流れ、そして素朴な人々の心を体験することができたからこそ今の自分があるのだと、思い通りにならないのが人生ではありますが、でも通ってきた道には無駄などないのだと、少し青臭いですが改めて考える秋の一日です。

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