日本酒の賞味期限について

 およそ日本酒に関係する仕事に携わっておられる方なら、必ず受ける質問です。

日本酒はどれくらいもつのですか?

頂いた日本酒を物置に入れておいたら忘れてしまって2年経ってしまったのですが、飲めますか?日本酒は古くなるとお酢になると聞いたのですが。

日本酒はフタを開けたらどれくらいで飲むべきですか?

それぞれに模範解答はないので、恐らく皆さんはそれぞれに考えて、それぞれの答えをなさっておられるのだろうと想像します。

そもそも、ワインに賞味期限を考えたことはありますか?

少し良いワインにはヴィンテージがついていることが多いですが、ワインには製造年月も賞味期限も表示されていません。これは国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機構(WHO)によって定められた「包装食品の表示に関するコーデックス一般規格」という国際的な食品表示に関する取り決めのなかで、ワインおよびアルコール含有量10%以上の飲料には賞味期限の表示をつける必要はない、と記してあるからです。

よってアルコール含有量が10%以上の日本酒には賞味期限の記載をする必要はありません。つまり日本酒は永遠に飲むことができると考えることができる、これが原則です。

ただしワインでも日本酒でも「飲み頃」というのは存在するでしょう。お酒は時間が経つとともに、成分の化学変化がおこり、香りや味わいが変化するからです。

たとえば口当りは時間とともにまろやかに、滑らかになります。これは水の分子とアルコールの分子が徐々に重合(ひとつの塊りになる)することによって、アルコールの刺激感が薄れるからであると言われています。

一方で、味わいは時間とともに複雑みを増して、少し苦みを伴った味わいがでてくることがあります。苦みや複雑みは、そのまま飲んで快感に感じる官能ではありませんが、濃いめの料理と一緒にお酒を飲むときには、そのペアリングを大いに引き立てる要素となります。

また、香りは少し香ばしい、カラメルのような香りを伴ってくることがあります。これは老酒のような穀物様の香りや、少しローストした木樽のような香り、またはキノコのような香りというように表現できると思いますが、ドライフルーツやカカオのようなつまみには、とても良く合います。このようなタイプのお酒は、またお燗をして飲むことによって香りが和らぎます。

概して、熟成とともにでてくるお酒の特徴は、新酒の時のフレッシュ感とはかなり異なり、好き嫌いがわかれます。ですから賞味期限を気にすることがないかわりに、お酒の香味の変化を十分に理解して、自分の好きな飲み頃を選ぶというのが賢い日本酒の飲み方であると思います。

日本酒には賞味期限が表示してありませんが、製造年月が表示されています。これは消費者が商品選択をするにあたって「いつ造られたのかという情報提供」の役割を果たしています。しかし、この表示をもって賞味期限と勘違いされるケースがあるとともに、「早く飲まなくては品質が劣化する」というような誤解を招くという議論があります。

確かに、日本酒を販売する方にとって、製造年月の表示は気になります。「この店は古い商品を売っている」という消費者のイメージを持って欲しくないからです。一部の百貨店やスーパーでは、一定の期間を経過した日本酒は棚から外して安価な社員販売に充当するというケースも見られます。これは少しもったいない気がします。日本酒の熟成の価値とは、品質劣化とはまったっく異なるものであるからです。

製造年月から時間の経っていない日本酒を好むという傾向は、「生酒」が多く流通するようになったこと、また流行の銘柄が「新鮮さ」「フレッシュさ」を売りにしているケースが多いということにも起因します。

フレッシュでピチピチしたお酒は、低温の冷蔵庫で管理されたものを、できるだけフレッシュなうちに飲むのが美味しいことは確かですし、「生酒」は管理されている温度によっては少し熟し過ぎた腐りかけの果物のような香りになる場合があります。

一番大切なのは、お酒を扱っている業者や飲食店が、どれだけその酒の価値を理解しており、それに適した品質管理をしているかということ、そして飲む消費者が、その酒の品質と価値を理解して楽しむということであると思います。

フレッシュでデリケートなタイプの日本酒、または生酒は低温で貯蔵し、できるだけ早めに消費すること。

また熟成に向いた力強さと複雑みを備えた本格派の日本酒は、あまり細かいことは気にせず、光の当たらない物置や床下に貯蔵して、適度な熟成を自分のタイミングで楽しむ。そうすれば2~3年忘れていたお酒を飲んだ時、びっくりするようなおいしさに出会うこともあるかもしれません。

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