スパークリングタイプの日本酒

awa酒協会という団体が設立されて、スパークリングタイプの日本酒がいよいよ本格的なジャンルになる時代となりました。
昨日、山梨銘醸㈱が新商品「expression」を発表されたのを見て、
このジャンルが健全に幅を広げてゆくことを感じ、とても嬉しくなりました。

発泡性の日本酒は、活性清酒と呼ばれて昔から売られていました。
発酵中のもろみを、そのまま火入れせずに瓶詰すれば、
発酵による炭酸ガスがいっぱいの、
フレッシュな風味のスパークリング日本酒として楽しむことができます。

発酵による炭酸ガスをそのまま瓶に閉じ込めるという、
ただそれだけのことなのですが、
それを安全で美味しく、美しい商品として完成させるには、
その後さまざまな努力が必要でした。

京都の「月の桂」が昭和41年に発売した活性にごりに始まり、
王冠にガス抜きの穴が開いた活性日本酒は、新酒時期の定番季節商品でした。
しかし、もろみの活性が強くてガス圧が高くなりすぎたり、
泡状のもろみで王冠の穴が目詰まりしてしまうと、
ビン厚の薄い一升瓶では、爆発事故も起こりました。

また、厚めのビンを使ってガスを抑え込んだとしても、
栓を抜いた途端に天井まで酒が噴き出して、
気が付いたら中身は1/3以下になっているという事態も日常茶飯事。

ただ炭酸ガスがあればいいというのではなく、
程良いガス圧があり、
ひどく噴き出さぬ安全性。
このガス圧のコントロールがひとつのハードルでした。

炭酸ガスを注入する方法であれば、いくらでもガス圧の調整ができますが、
繊細な泡を楽しんでもらうためには、
どうしても瓶内二次発酵による炭酸ガスが必要です。

このハードルをクリアしたのが、
平成10年に発売された一ノ蔵の「すず音」でした。
この商品は、これまでの日本酒の概念を打ち破る画期的な商品として、
爆発的な売れ行きとなりました。
クリアに近い淡いにごりにキメの細かい泡立ち。
何よりも日本酒とは思えぬ甘酸っぱい香味が魅力でした。
そしておしゃれなプリント瓶も当時としてはかなり斬新。

その後しばらくは「すず音」を中心としてスパークリング日本酒は展開しました。
寶酒造が「澪」という酒で、このジャンルをさらにコモディティ化したことはご存知のとおりです。

その間にも、山形県で炭酸ガス注入と瓶内二次発酵を合わせたタイプの酒が開発されたり、
ドライタイプのスパークリングが開発されたり、
常に誰かがスパークリングのジャンルに新しいチャレンジを繰り返してきました。

この状態に風穴を開けたのが、永井酒造の「Mizubasho Pure」です。
本格的なシャンパン製法を取り入れ、
デゴルジュマンによる滓引きを施したクリアタイプの本格スパークリング日本酒を世に問うこととなりました。
低アルコールのデリケートな品質を保持するためにクール配送を義務付けた「すず音」と違い、
この商品は火入れを行い、常温流通可能な商品として売り出したことから、
店頭販売、レストランでのメニューなど、流通の柔軟性が格段にアップしました。

「Mizubasho Pure」はスパークリング日本酒の世界を大きく変えたと思います。
瓶内二次発酵によるきめ細かい泡を十分に楽しめるガス圧、
火入れによる爆発防止、
ドサージュ技術など、
様々な課題をクリアしてこられた努力には本当に頭が下がります。

こうして2016年に「awa酒協会」が設立されました。
ここから先が本当の勝負になるでしょう。

フランスの名だたるシャンパンと同じ価格帯で勝負しようと思ったら、
当然それだけの価値を具備することが求められます。
どうしてシャンパンはあの価格で売れ続けるのか、
その理由をよくよく考えて進化してゆく過程が始まります。

決してブランド戦略だけではない、品質としての差別化が必要。
山梨銘醸㈱のトライアルは、
とても高いピークを目指した
高い志を感じさせるチャレンジです。

頑張って欲しいですね。


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