酒蔵を核とした地域ツーリズム開発セミナー

6月の末に、こんな名前のセミナーを開催しました。
観光庁が観光立国をうたってインバウンド旅行者を増やすことをプロモートし始めてから、酒蔵ツーリズムという言葉が業界内でもしばしば聞こえるようになりました。

酒蔵は各地の食文化の中心として機能してきましたし、
地元の名士として顔もきくことから、
酒蔵を中心とした街おこし、
酒蔵を中心とした地域の観光化という発想は、ずいぶん前からありました。
それが、今は「酒蔵ツーリズム」という言葉で喧伝されることになったのです。

何となく説得力のある言葉なので、
よしそれで行くぞ、みたいなムードなのですが、
実は、あまり真面目にその言葉の持つ意味を自分の問題として考えている人は少ないのではないかという気がします。

まず、酒蔵ツーリズムとは日本人相手なのか外国人相手なのか。

どちらも大切。
その通りです。
酒蔵はひとりでも多くの人に来てもらって、
1本でも多くの酒が売れれば万々歳。

でも、日本人相手のマーケティングと外国人相手のマーケティングは違います。
それをしっかりと認識して、
それなりの作戦を考えなくては、虻蜂(あぶはち)取らずになってしまうでしょう。

私が考える酒蔵ツーリズムという言葉の意味は、
日本酒の輸出戦略の一環として、
インバウンド旅行客に ”忘れられない” 日本酒体験をしてもらい、
その良いイメージを自国に持ち帰って宣伝してもらう、
ということです。
日本人向けに、賑やかな土産物屋を展開して大量販売、
という世界とは一線を画して考えるべきであると思います。

確かに、短期的な商売としては「?」かもしれません。
短期的な費用対効果を考えれば、
ひとりでも多くの国内外の観光客に蔵を訪れてもらうことによって、
売上が増加し知名度も上がる、ということを考えるのは当然。

でも、
ここで本気に外国人を意識したマーケティングを行うことで、
何十万円もかけて海外出張して酒のプロモーションをすることよりも、
もっと効率的なプロモーションをすることが可能であるし、
海外に行って、1本の酒と自分の説明だけで伝わるものよりも、
何十倍も多くの情報を、
「見て」頂くことによって伝えることができるのがインバウンドです。
自社ブランディングの意味合いからも、
「来て」「見て」頂くことには大きな合理的な意義があると思います。
Don't you think so?

ということで、
昨年からこの問題を議論してきたジャスティン・ポッツさんと、
「本気で酒蔵ツーリズムを考える幕開け」として、
このセミナーを開催しました。

セミナーの内容として織り込みたかったのは、

① 諸外国のワインツーリズム・ビアツーリズム・スコッチツーリズムの事例紹介

酒蔵ツアーというと、
どの蔵元に行っても、精米所・原料処理・麹室・酒母室・仕込み蔵・槽場・瓶詰場、
多少の違いはあっても、
基本的にこの酒造りの工程を一応たどることと、
木製の昔の酒造りの道具の展示、
そして無料試飲のできる売店、というコースが多くありませんか?
でも、
私が行ったことのあるヨーロッパのワインツアーは違いました。
ブドウ畑を見て、ブドウ畑の向こうにあるシャトーの外観を見て、
それから樽の並んだカーブを見て、
運が良ければ樽からスポイトで熟成中のワインを飲ませてもらって、
そして最後にしっかりとテイスティング。

ですから、
日本の酒蔵ツアーはどこへ行ってもほとんど同じ(特に面白くない)製造に関する内容を、
あまりロマンチックでもないかび臭くて暗い蔵の中で聞かされて、
さぁ買え買えとばかりにプラカップで次々に色々な酒を唎酒させられるという、
「忘れられない思い出」というにはあまりにチープな内容と言わざるを得ません。

本場のワインツーリズムとは、
何の目的で、どのように自分の蔵を見せ、知らしめているのか。
それを参加者に考えて欲しいと思いました。

もうひとつ、セミナーの内容に織り込んだのは、
② 外国人の視点から見た時に魅力と感じるのは何か、ということです。

こんな田舎の何もない町に、わざわざ足を運ぶ外国人なんていないとか、
うちに来て頂いたって、何も喜んでもらえるものなんてない、
そんなことをおっしゃる蔵元がたくさんおられます。

その一方で、
いわゆる観光地巡りに飽きた観光客は、
「体験型ツーリズム」と言って、
農業体験、森林体験、田舎生活といった、
これまで観光資源と考えられていなかった事柄を楽しむようになっています。

「何もない田舎」にもこんな財産があるのだ、ということを、
外国人の口から語って欲しいと思いました。

ジャスティンさんと半年かかって選んだ4名の講師に、
上記の内容がしっかりと詰まったお話をしてもらいました。
主宰の私が言っていてもしょうがないのですが、
本当に面白い講演でした。

朝から夕方までの長丁場で、
一人も眠っている人を見ないセミナーって、
そうはないと思うのです。

参加しなかった人は残念でした~!

コメント

人気の投稿