夏に燗酒を飲むこと

 冷蔵庫という今では当たり前にそこにある電気製品が普及したのは、戦後の高度成長期です。

ということは、それ以前はお酒を冷やして飲むということは基本的になかったわけで、お酒と言えば冷や(常温)とお燗しかなかったのですね。

江戸の町で町人に愛された居酒屋では燗酒が飲まれることが多かったようですから、お酒と言えば基本的に一年中燗酒で、燗でない場合は「冷やでお願いします」と注文する必要があったのかな。長屋で飲む酒は、おそらく冷や酒だったのでしょうが。

私が業界に入った頃(昭和末期)の酒は今よりもずっとゴツくて、純米酒となるとちょっと重たすぎて、正直なところあまりおいしいとは思える純米酒に出会うことは少なかったと思います。

その後「冷酒」というカテゴリーの酒が300㎖などの小瓶で発売されるようになってから、冷やしておいしい少し軽めですっきりとした酒が市場に広まってゆきました。吟醸酒が一般的に人気を集めるようになったのもこの時期に重なります。

吟醸酒とともに、日本酒はずいぶんと変化を遂げたように思います。

温暖化とは関係ないと思いますが、世の中では冷たい飲み物がすっかりメジャーな存在になって、かつて当たり前のように暖かくして飲んでいた日本酒・紹興酒・本格焼酎なども、冷たくして飲む飲み物になってきました。

それにともなって、酒質も冷やしておいしいものに変化してきました。

爽やかな酸味と、なめらかな口当たり、低めのアルコール度数、甘味、ガス感…。

様々なおいしい酒がうまれました。

でも世の中には夏でもお燗酒しか飲まない人もいます。一年中焼酎のお湯割りを飲んでいる方もたくさんおられます。

考えてみれば、昔から暑い夏には熱いお茶を飲んで涼をとるという知恵があります。

冷たいものばかり飲んでいると胃に負担がかかって消化吸収が悪くなり、夏バテに繋がる一方で、暖かい飲み物は胃腸に負担が少なく、消化吸収が良いので身体に良いということ、そして暖かいものを飲むことによって汗をかき、その汗が蒸発する時に肌の熱を奪うことから涼しさを感じるという側面もあるとか。

まぁ理系音痴の私にはよくわかりませんが、今では家の中にエアコンがきいているのが当たり前と思えば、真夏にお燗酒を飲んだところで、汗をかくこともありません。理屈はともかく、要するに自分の好きな飲み方をすれば良いということだと私は思っています。

私は冷たいものをガブガブ飲むよりは、身体にやさしい暖かい飲み物をゆっくり飲む方が好きなので、どちらかというと暖かいお酒が好きです。日本酒に限らず、本格焼酎はお湯割り、紹興酒も温めて飲むのが好きです。

でも、荻窪の大好きな鰻の「川勢」に行って、真夏にお燗酒を注文すると、まわりの誰もお燗酒を飲んでいる人がいないことが多くて、ちょっと申し訳ないような気がします。

この店では、やかんに酒をどぼどぼと注いで直火燗。

串焼きを焼く合間にやかんの底に手を当てて燗具合をみている店主の仕草が粋で、それまでお酒のつまみになってしまいそう。

こんなお店がたくさんあれば楽しいのになぁといつも思っています。

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