焼酎もペアリングの時代に入ったか

世界を股にかけて活躍するミクソロジストの後閑信吾さんが、熊本の高橋酒造㈱・大分の三和酒類㈱・鹿児島の薩摩酒造㈱の3社にたのんでSG焼酎というシリーズをプロデュースされました。
白岳・いいちこ・白波という焼酎を製造する、それぞれの原料のなかでは最大手クラスの蔵です。
後閑さんのSG焼酎へ寄せる思いがパンフレットにこう書かれています。
「焼酎の原点はシングルディスティルド。一度きりの蒸留が表現する素材の豊かな風味と香味には、日本で磨かれた技術と感性が感じられる。」
「500年以上の歴史あるスピリッツが、新しい飲み方を通じて生まれ変わる。そんな再発見の重なりが進化する伝統の継承に繋がっていく。」

焼酎を語る言葉として新しいのは「スピリッツ」という言葉です。
スピリッツと言えば、ウォッカ・ラム・ジン・テキーラなど、極めて身近な飲み物で、
それ自身はまったく新しくもなんともない言葉ですが、
焼酎をスピリッツと呼ぶ習慣は、実は焼酎業界にはありませんでした。

もちろん例外はあります。
泡盛は、もともと原酒で貯蔵され、原酒で飲まれる飲み物でした。
球磨地方でも、昔は原酒をそのままお燗にして飲む習慣がありました。

でも、焼酎が庶民の飲み物として広く定着している鹿児島では、
早い時期から焼酎を前割りしてからお燗にして飲む習慣が日常でした。
米が十分に収穫できず、庶民の口に入らない地方で、
本当は日本酒を飲みたいけれども、せめて焼酎を日本酒のように飲もうという思いが感じられる飲み方です。

焼酎はこれまで3回のブームを経験してきました。
第1次ブーム(昭和50年~55年)に定着したのが、「白波」の 6:4 のお湯割りでした。
このブームが焼酎(=芋焼酎)を割って飲む飲み方を全日本に広め、
その後の「いいちこ」を核とした麦焼酎ブームは、もはや割って飲むことを前提としていました。
日本酒を楽しむのと同じように、
日本酒のかわりに焼酎を楽しみましょう。
これが焼酎マーケティングの前提にあったように思います。

平成15年の芋焼酎ブームから、少し変化がみられます。
芋焼酎ブームの前、平成10年頃に赤ワインブームがありました。
ポリフェノールの効果が謳われたあれです。
東京の人が、それまで「臭い」と言っていた芋焼酎の香りを受け入れたのには、
赤ワインの「香りを楽しむ」という文化が大きく影響していると思います。
芋焼酎の「におい」ではなく「かおり」という表現に変わったのです。
ポジティブに受け入れた証拠です。

この芋焼酎ブームの時、
鹿児島・宮崎のメーカーは、こぞって「お湯割り」「水割り」を勧めましたが、
東京の消費者は、最後までこの「お湯割り」に心を開かず、
地元ではむしろマイナーな飲み方である「オンザロック」で焼酎を楽しみました。
確かにお湯割りは芋焼酎を美味しく飲む素晴らしい飲み方ですが、
まず日本酒のお燗酒文化自体が東京では廃れてしまっています。
さらに、アルコール自体のとろりとした甘味や、
芋の風味は、ロックの方がより明確に感じられます。

西洋食文化の影響を強く受けている東京の人間が、
「未知の飲み物」である焼酎を受け入れるにあたって、日本酒の代替という発想はなく、
ひとつの飲み物として見た時に自分にとって美味しい飲み方を、
素直に表現した形なのだろうと思います。

さて、前置きにしては長すぎる焼酎論になってしまいました。
SG焼酎の話です。

SG焼酎は、38度~40度の原酒です。
そして、焼酎をそのまま飲む発想は薄く、
加工して使うことを前提としています。
家庭用の酒というよりは、バーでプロが使う酒というコンセプトです。

そしてバーテンダーという旧来の言葉に変わって
ミクソロジストという呼称が生まれました。
バーテンダーとミクソロジストの明確な区分はありませんが、
より先進的な原材料と組み合わせから新しい味を作り出すという志向を持つのがミクソロジストと言えるでしょう。
確かに彼らの作るカクテルは、
マルティーニやサイドカーというシンプルなスタンダードカクテルと比較すると、
もはやカクテルというよりは「料理」に近い、
そんな印象を受けます。

そんなミクソロジストとして世界的に有名な後閑信吾さんのお店、
渋谷のSGクラブに行って、SG焼酎をベースにした10種類のカクテルと料理を楽しむペアリングコースを体験してきました。

本格焼酎は基本的にどんな料理とも反発しない、と言われますが、
本格的ペアリングコースを体験するのは初めてです。

ひとつひとつのカクテルと、それにあわせる料理。
後閑さんのイマジネーションの広がりと遊び心が満載の、
ディナーというよりは、エンターテイメントというのが近いかもしれない、
非常に上質で濃密な体験となりました。

楽しい。
これが私の感想。




















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