コロナ禍が海外の日本酒市場にもたらす影響

コロナの蔓延が止まりません。
これまで東京に集中してきた罹患者が徐々に地方都市に広がり、
コロナの恐怖が全国的なものになりつつあります。

コロナの日本における酒類の消費への影響は、主に「外飲み」から「家飲み」への移行という形で現れました。
4月の緊急事態宣言を受けて多くの飲食店が閉店を余儀なくされた結果、
「テイクアウト」と「家飲み」というキーワードが俄然メジャーな存在になってきました。
これによって、家飲みを支える店としての住宅地立地のスーパー・ドラッグなどを中心とした販売店は「年末並み」と言われるほどの活況を呈したのに対し、
飲食店市場を主たるターゲットとした酒販店や、都心部立地のコンビニエンスストアなどは、売上が前代未聞の急降下となりました。

これにともなって、販売店へ商品を供給する酒蔵にも大きな影響がでました。
飲食店を中心に出荷されていた酒蔵は、4月以降大きく出荷を減少しましたが、
スーパー・ドラッグなどへコモディティ商品を中心に販売していた酒蔵は、
それほど大きく出荷を減らすことはありませんでした。
両者の差異は、びっくりするくらいに大きいもので、
特に東京都心の飲食店が主戦場だった中小地酒蔵は非常に苦しい経営のかじ取りを余儀なくされることになりました。
「今更ながらですが、チャネルをもう少し広く持っておけばよかった」
「地元をもう少し大切にしておくべきだった」
こんなぼやきが、蔵元の口から洩れていました。

基本的に、このような状況はコロナ禍に苦しむ海外でも起こっています。
日本のコロナ罹患状況は欧米に比較すると少ないですから、
ロックダウンの期間や、この病気への恐怖感も日本とはまた違う次元であることでしょう。

昨日、中央会の海外戦略委員会にて、海外に設置するサポートデスクとオンラインの情報交換が行われました。
参加したのは香港のミッキー・チャン、イタリアのマルコ・マッサロット、そしてイギリスの吉武理恵さん。
それぞれの地域において、何が起こっているのか。
それが日本酒の消費にどのように影響しているか。
そして、今後どのような戦略をとっていくことが必要か。
各地のサポートデスクのレポートは非常に興味深く、良い学びになりました。

コロナが世界的なパンデミックに広がるにつれて、各国でロックダウンが実施され、飲食店が一定期間の閉鎖に追い込まれました。
海外での日本酒の消費は、日本国内以上に飲食店市場に偏っています。
それだけに、ロックダウンによって現地の日本酒消費は一挙にストップしてしまい、
当然のことながら、日本からの輸出もストップ状態になってしまった。
これが、一般的な状況認識でしょう。

この傾向が一番感じられたのがイギリスからの報告でした。
イギリスでは、飲食店の閉鎖によって日本酒の在庫が山積みになっており、
事業の継続さえ不透明な状況とのこと。
かなり深刻な状況がうかがえます。
またロックダウンが解除された後、6月20日頃までにドイツやアイルランドではレストラン利用客がかなり急速にもとに戻ったのに対して、イギリスでは60%程度までしか戻らなかったという統計もあります。
逆に家での食事はかなり定着し、
料理に無頓着で有名だったイギリスで家庭料理がトレンドになるくらいとのこと。
イギリスにおける「ニューノーマル」は、「家族」がひとつのキーワードと言えそうです。

イギリスとイタリアに共通して興味深かったのは、
ロックダウンによって、両国ともに明らかにアルコール消費が増加したとのこと。
家でやることがないと、ヨーロッパの人は酒を飲むのですね。
むしろ飲み過ぎが心配されているそうで、さすがアルコール耐性の強い民族は違うと言わざるを得ません。

イタリアでも家庭消費が増えたために、スーパーマーケットでの売場確保が重要とのコメントがありました。
恐らくこれはどこの国でも同じ状況なのでしょう。

また、日本と同様に、いえ日本以上にこのコロナを通じてスマートワーキングの可能性が広がったイメージを持ったようです。
大好きな家族と一緒に家で過ごして仕事もする。
これが、ヨーロッパのニューノーマルの形なのかもしれません。

香港はヨーロッパと異なり、日本酒の輸出は早めに戻り、単月ではプラスに転じました。
香港の住居は、ヨーロッパの住居に比較すると小さく、快適とも言えないため、
リモートワークといっても、家庭で仕事をする人は多くないとのこと。
どこか屋内外のWifi環境がある場所を探し、公共スペースなどで仕事をする人が多いとのことです。
香港でもレストランが閉鎖になり、家庭で食事をせざるを得ない状況になっていますが、
ヨーロッパほどその形が定着するということは考えにくい様子です。

香港は日本酒の輸出単価が一番高い国です。
非常にブランド志向が強く、並行輸入品が良く売れるのが特徴。
日本に好感を持つ人が多い国なので、将来的な日本酒の市場はまだまだ伸びると考えられているようですが、品質をベースにした消費の定着にはまだ時間がかかりそうです。

イギリス・イタリア・香港の3地域のサポートデスクから異口同音に出たトレンドの特徴は、何といっても「オンラインショッピングの増加」でした。
家庭での消費が増加することは、この傾向をさらに加速させるだろうとの意見が支配的です。

コロナはまだおさまる気配を見せず、これから来年にかけて何が起こるのか予想することはできません。
経済活動が低稼働を余儀なくされている以上、早期に景気が浮揚することは考えにくく、厳しい出荷状況が続くことになるでしょう。
それだけに、正しい情報を早くキャッチして、自分の行動を変えることが求められるのだろうと思います。
慣れ親しんだマインドセットと行動形態を変えるのは面倒なことです。
でも、そこにしぶとく対応できた者しか生き残ることを許されない、そんな世の中に直面していると私たちは認識しなくてはならないと思います。

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