雪の秋田のあたたかさ

大寒から2月にかけて、酒蔵では新酒鑑評会に出品するための「本番」が仕込まれることが多いのです。それはこの時期が一年でもっとも寒くて温度管理がしやすいこともありますし、3月下旬の出品時期に一番良い状態に仕上がるタイミングをはかってということもあるかもしれません。

いずれにしても、この時期に酒蔵に行くと働き手には独特の緊張感が漂っていますし、たまたま大吟醸の搾りの日に当たっていたりすると、杜氏はピリピリしていてとても話しかけられる雰囲気ではありません。そんなもんです。

でも昔はいつもこの時期に酒蔵回りをしていました。

杜氏さんはピリピリしていても、蔵元は嫌な顔をせずに接して下さいますし、何よりも清涼な空気のなかに漂うヤクルトのような吟醸香が本当に良い香りで、心がワクワクするのです。

色々な蔵を訪れましたが、この時期の景色が本当に美しいのは、しんしんと雪の降る秋田の内陸です。奥羽本線 十文字駅のそばにある林旅館という古い日本旅館で蔵元と酒を飲みながらハタハタのしょっつる鍋を食べました。今から30年くらい前のことです。

聞いたことはあっても、ハタハタを食べるのも、しょっつる鍋を食べるのも初めてで、独特の個性的な味わいが今でもはっきりと蘇ります。若者の口には決して大好きな味ではありませんでしたが、雪に囲まれたひたすらに静かな旅館で、年を取った蔵元のお話を伺いながら過ごした時間はとても贅沢で、私の宝物になりました。

エアコンのきいた素敵なホテルのレストランで食べる食事が贅沢なのか、この古い旅館で炬燵に足を突っ込んで食べる食事が贅沢なのか。私は間違いなく後者を選びます。

食事が終わって寝る前にちょっと付近を散歩してみました。

何の音もしない、ただただ雪がしんしんと降っている秋田の夜。本当に音がしないのです。

 

2月の中旬に秋田に行くと、運が良ければ地元のお祭りを見ることができます。

なぜか秋田には一番雪深い季節にお祭りがあります。私は運よく有名なかまくら祭りに参加することができました。

横手の町の広場に、少し大きめのかまくらがいくつも並んでいて、その中からほのかなオレンジ色の灯かりが漏れています。かまくらの中には綿入れを着た子供たちがいて、「いってたんせ」と私たちを呼びます。どれどれと中にはいって子供たちと一緒に座っていると、お餅や甘酒をふるまってくれました。

雪の白さとほのかな灯かり。しんしんと音もなく降りつづける雪。

秋田の酒を飲んでいると、なぜか私の心の中にはこの冬の景色がめぐります。それは凍てつく寒さではなく、なんとなくあたたかい寒さなのです。





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