「日本酒の日」を「日本酒を飲む日」にしよう!

 10月1日は「日本酒の日」。

業界では毎年この日に合わせて全国で様々なイベントを行い、同じ時刻に全国各地で乾杯をしています。

海外でも最近では熱心な日本酒ファンの皆さんが「World Sake Day」と称してイベントを行なったり、プロモーションビデオを作ったりして、この記念日を楽しんでおられます。

いやぁ、何だか「日本酒の日」も結構認知されたなぁ、などと言っておられる輩もいるわけですが、世間一般では驚くほど「日本酒の日」は知られていません。

日本酒に関するこれまでの様々なプロモーションを通じて学ぶことは、これらのプロモーションが一部の日本酒ファンのなかにとどまり、一般的な広がりにほとんど繋がっていないということです。

ですから、日本酒のイベントはどこへ行っても大盛況で会場にぎっしりと人が詰まっている印象がありますが、来ているのはどこも似たようなメンバーになっている。結局コアな日本酒のファンが様々なイベントをはしごして盛り上がっているという域を出ていないというのが現状なのだろうと思うのです。これでは日本酒の市場は広がりようがありません。

コロナ禍を通じて業界は痛いほど学んだはずです。

日本酒は飲食店で消費されているほど家庭では消費されていない。一般の消費者は、家庭で日本酒をあまり飲んでいないということを学んだはずです。だから飲食店が営業を自粛したことによって、日本酒の消費が大きく落ち込む結果となったのです。

今、日本酒業界が本気で取り組まなくてはならないことは、ひとりでも多くの一般消費者が、日本酒に親しみ、家庭で楽しむお酒のアイテムとして認知してもらうことだと思うのです。

コアファンを大切にすることは大切かもしれませんが、その手法とは異なる発想で新しい市場を切り拓く努力をしなくてはなりません。

どうしたら良いのでしょう。

家庭で日本酒が飲まれていない理由はなんでしょう?

私はその最大の理由は消費者の手に届くところに日本酒が置かれていないことだと思います。

現在、家庭用のお酒の売場の約60%をコンビニとスーパーが占めています。ホームセンター・ドラッグストアを含めると約70%になるでしょう。そしてこれらの売場では目ぼしい日本酒の銘柄は残念ながらあまり販売されていません。

人気の高い地方酒銘柄は、専門店と百貨店に極端に偏った流通政策をとっているケースが多く、専門店は業務用に偏った販売を行っているケースが多いのが現状です。自然に、流通量は業務用に偏る結果になります。

近年でははせがわ酒店・いまでや・君嶋屋などの力のある専門店が好立地の店舗を構えることによって一般消費者向けの店売りを強化している傾向がありますが、どうしてもプレミアム感が強く、一般消費者のデイリー消費を押し上げる売場になっているとは言えません。やはり日常生活に密接した売場での販売がどうしても必要であると私は思います。

もちろんすべてのメーカーにそうしろと言っているわけではありません。スーパーと言っても様々な業態がありますから、それぞれのメーカーが自社商品の性格とターゲットとする市場を考えて戦略を構築すれば良いことです。

いずれにせよ、日常消費のお酒を消費者が買う売場へのアプローチと、ECへの注力は、メーカーが真剣に取り組まなくてはならない事項であると私は確信しています。是非本気で動き始めて欲しいと願ってやみません。


さて、「日本酒の日」に話を戻しましょう。

日本酒業界では、ここしばらくの戦略として全国一斉乾杯という謳い文句でこの記念日を盛り上げてきました。これはこれで良いとしましょう。

でも、消費者の立場としてこの戦略を見た時、家で乾杯するひとは果たしてどれだけいるのだろうと私は疑問に思います。

例えば「恵方巻き」を考えてみましょう。節分の日に「恵方」の方角を向いて恵方巻きを食べるという習慣は、関東にはまったくありませんでしたが、ある時からコンビニを中心にしたプロモーションが行われた結果、今では大きな消費となって定着しています。ただし、この日に「恵方」の方角を向いて恵方巻きを食べている人は、恐らくほとんどいないだろうと想像します。

このことから考えると、「日本酒の日」についても「乾杯」という儀式にこだわり過ぎるよりも「飲む」ということに主眼を置いたプロモーションにすることの方が、消費者にとって、また実際に酒を販売する流通にとって乗りやすいのではないかと思います。

「日本酒の日」に日本酒を飲みましょう、というシンプルなメッセージを組織的に展開することによって、実際の消費が生まれます。

ここで大切なことは、プロモーションを消費に繋げることによって、流通がバックアップする理由が生まれるということです。いくら乾杯しましょうというメッセージを発しても、酒の売場はバックアップしずらいのですが、「飲む」という消費を促すメッセージは、彼らの売上に直結するわけですから、当然売場は一生懸命にバックアップします。

想像してみて下さい。

「日本酒の日」に全国のスーパーやコンビニ、そして酒販店の店頭で「日本酒の日は日本酒を飲んでお祝いしましょう」というポップが目に止まることによって、広く消費者がこの日を認知してくれます。酒が売れればメーカーも流通も万歳です。

もちろんそんなに単純な話ではないでしょう。

なんで「日本酒の日」に日本酒を飲まなくてはならないのか、消費者をその気にさせる仕掛けが必要です。みんなで少し知恵を絞って考えてみませんか?

乾杯の人数を集計しているよりも、よほど建設的な話だと思うのですが。

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