SAKE+文化 のトライアル

海外駐在が長かった商社勤めの友人が言うには、海外で評価される人間は、自国の歴史文化に関する知識をしっかり持って、それを伝えることのできる人間だ、とのこと。

また、先日の全国会議でゲストの観光庁の方のお話から。

「酒蔵に行って経験したいこと」についてインバウンド外国人にアンケートをとったところ、「試飲」についで上位にきたのが「酒蔵や地域の歴史について知りたい」ということでした。

酒蔵ツーリズムの必要性がもうしばらく前から問われていますが、実際に酒蔵に行った方々が経験できる酒蔵見学のコンテンツは相変わらずな気がします。

酒造りの工程に従って蔵の中を見学して、昔の道具やビンを見たりして、それから売店に行って試飲、そして「さぁ、たくさん買って下さい!」というコース。

一昨年に「酒蔵を核とした地域ツーリズム開発セミナー」をジャスティン・ポッツさんと一緒にやった時、講演をお願いした郭山松美さんがカリフォルニアのワインツーリズムについて言っておられたことがとても印象に残っています。

ワインツーリズムで大切なポイントは2つ。

まずは、徹底して魅力的な試飲のシチュエーション。

自社の酒が少しでも美味しく感じられる設えと雰囲気を作り、感動を与えること。

そしてもうひとつは、説明者の知識と熱意だと言っておられました。

社長以外の社員が説明をするのでも、外の人に自分の蔵を説明するのであれば、自分が代表者であるという強い意識を持ってしっかりとプレゼンテーションができることが必要だとのことです。

しっかりとしたプレゼンテーションとは、酒造りについての知識ではなく、蔵や地域の歴史、他の蔵と比較して自社は何が特別であるのか、原料農家のこと、水源のこと、地域の気候風土のこと、等々。

大切な知識とは、酒造りのノウハウではなく、歴史・文化・風土、そしてその蔵の生き方やポリシーであるということです。

日本酒や本格焼酎には、まだまだ銘柄信仰の傾向が強く、銘柄と別のところにある真の酒の価値について目を向けることが弱いように感じられます。

海外でもアジア圏、香港や中国では日本酒の需要が伸びていますが、有名銘柄や希少銘柄に偏った需要になっている感は否めません。

もちろん欧米にもブランド志向がないわけではありませんが、欧米人は比較的自分の経験値と味わいそのものから酒を選ぶ傾向があるように思います。

そして欧米人は歴史や背景のストーリーに非常に興味を示します。

日本酒・本格焼酎メーカーは、ここのところを良く認識して欲しいと思います。

売れている銘柄があれば、その銘柄と同じような酒を造るとか、同じようなテイストの衣装を用意するとかいう発想ではなく、そもそも自らが拠って立つところを受け止めるところから積み上げたブランド価値を創造して欲しいと思うのです。そして、それを明確に説明できる言葉を作ることも大切。言葉なしに情報を伝えることはできないからです。


さて、ひとつの蔵の話はさておき、今年は自分のテーマとして、酒と文化を切り口にした需要振興ということを考えたいと思っています。

歴史のある日本酒文化を、他の歴史ある日本の文化と掛け算することで魅力を探る試みです。

これまでもたくさんの方々が「落語と日本酒」や「狂言と日本酒」など、このような取り組みをしてこられました。

それぞれの歴史のなかに接点を見つけることによって、その魅力をより深く知るという観点の取り組みです。

多くの人が興味を示す可能性の高い人気の落語や狂言であれば、日本酒に関係した演目を選んでプロの芸を楽しみ、それから日本酒を飲むというような単純な設えでもまぁイベントとしては楽しいのだろうと思います。

ただ、コロナの世の中になって人を集めたイベントが難しくなった時、同様のイベントをオンラインで行うとなると、酒を飲んで盛り上がるという部分が欠落するため、演目そのものの意義づけが必要になります。

落語面白かった。

この話は日本酒の話で、落語家の語りや演技がうまかったね、というような感想だけで終わってしまっては、それが日本酒の振興に繋がるというには弱い。

もっと意義づけを明確にして、なんで日本酒なのかということを参加者に理解して頂けるコンテンツとして仕上げたいと思っているのです。

掛け算で日本酒と楽しみたい伝統文化コンテンツは沢山思いつくのですが、

これを日本酒の振興につなげる、

できれば若者の市場拡大に繋げられるようなアイデアに悩んでいます。

果たして実現までこぎつけられるだろうか、ちょっと不安。


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