京都伏見は楽しい酒処

私が生まれたのは祖父が創業した新川にある小さな酒問屋でした。

幼いころの新川には江戸時代から続く酒の町の名残がありました。酒は古い業界ですから、問屋にも必ずしも規模によらぬ格のようなものがあって、小規模な新参者は大手の酒蔵との取引をすることは叶いません。我が家は祖父の実家である広島の酒の商いを中心に、地方の中小酒蔵との取引へと広げてゆきました。

中小といっても酒蔵は歴史のある地方の名士ですから、それぞれに立派な構えの屋敷と蔵を持っておられます。毎年のように酒造りの季節に取引先の酒蔵を訪問するのはとても楽しく、日本全国の様々な土地の食べ物や風土に見聞を広めることができたのは、自分の大きな財産になっています。

そんなこともあって、灘とか伏見という大手がひしめいている地域は酒の商売をしながらも私にはあまり縁の深くない場所でした。訪れることはあっても、その地域の小さな酒蔵を訪ねることがほとんどで、大御所は別世界でした。

中央会の仕事をするようになって、初めて大手酒蔵の皆様とのお付き合いが始まり、身近な存在になってきました。何社かの蔵にも訪問する機会を頂きました。

酒の大生産地を訪問して思うのは、その底力のすごさに尽きます。規模、資産、歴史文化、技術とあらゆる側面においてさすがに歴史ある大手は違うと、ため息がでます。

灘・伏見が大生産地になったのは、江戸向けの酒が猛烈に売れたからだと言われています。酒の味わい、千石船による流通、そして大規模生産を可能にした地の利など、自分の生まれた土地に実はとても深いかかわりを持っていた灘・伏見の歴史には興味が尽きません。

 

今回は伏見を訪問してきました。

かつて豊臣秀吉が伏見城を構えたこの地域は京都市の南、京都駅から電車で10分の便利なところです。今回は仕事から離れたひとりの旅人目線でマップを片手に街歩きを楽しんできました。

京都には歴史を感じさせる素敵な景観が沢山残されていますが、伏見も素晴らしいところです。酒処としての伏見を特徴づけるのは何と言ってもその良水と言われていることから、まずは近鉄戦 桃山御陵の駅から徒歩1分のところにある御香宮神社(ごこうのみやじんじゃ)に行ってみました。このお宮には伏見の名水を代表する「御香水」が湧いています。取水場には地元の方が何人もペットボトルを持って並んでおられました。伏見エリアではこの「御香水」の他にも「白菊水」「さかみづ」「伏水」などの井戸を巡ることができます。

やわらかい御香水を味わったあとは、酒蔵の立ち並ぶエリアの散策。なかでも月桂冠の建物は圧巻。広々としたエリアに立ち並ぶ木造の味わい深い建物が並ぶ様子は、本当に美しい景観です。記念館の見学と試飲をひととおり済ませたら、すぐ近くにある坂本龍馬で有名な寺田屋を巡り、つづいて「神聖」山本本家、「富翁」北川本家、「黄桜」黄桜、「坤滴」東山酒造、「桃の滴」松本酒造、「蒼空」藤岡酒造と全部で7つの酒蔵を巡ってきました。

伏見の町には商店や料理屋も多く、伏見の酒が全部楽しめる「伏見夢百衆」や「伏水酒蔵小路」といった施設もあります。あっという間の3時間。是非お試しあれ。








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